「毎月の収支が赤字続きで、何から手をつければよいか分からない」——資金繰りが厳しいクリニックの院長・事務長からよく聞かれる悩みです。結論として、着手する順番は「固定費の見直し」→「患者単価の見直し」→「来院数を増やす施策」の順が効果とスピードのバランスに優れています。この順番を守らずいきなり広告費を投じると、赤字の穴を広告費でさらに広げるだけになりかねません。
まず押さえるべき要点は3つです。
- 固定費は「削っても診療体制に影響しない項目」から優先的に見直す
- 患者単価は保険診療の範囲内でも見直せる余地がある
- 来院数を増やす施策は、広告より先に院内体験と無料施策を固める
赤字クリニックの経営構造とは:固定費・変動費・来院数の関係
赤字クリニックの経営立て直しとは、月次の収支を「固定費(賃料・人件費・リース料など診療量に関わらず発生する費用)」「変動費(材料費・委託費など診療量に連動する費用)」「来院数(新患・再来を合わせた診療単位数)」の3要素に分解し、どこにボトルネックがあるかを特定して改善する取り組みです。
赤字の原因は院ごとに異なりますが、実務上よく見られるパターンは以下の3つです。
- 開業時の借入返済と固定費が来院数に見合っていない
- 患者単価が診療圏の相場や自院の診療内容に対して低い
- 来院数そのものが伸び悩んでいる(新患が入らない、あるいは再来率が低い)
どのパターンに近いかによって、着手する順番の重みづけが変わります。まず自院の月次試算表を確認し、固定費・変動費・来院数のうちどれが直近半年で悪化しているかを洗い出すことが立て直しの出発点です。経営全体の優先順位の考え方はクリニックのマーケティング戦略とは|誰に・何を・どの順で決めるかでも整理しています。
固定費の見直し:削れるもの・削れないものの判断基準
固定費の見直しは、資金繰り改善の中で最も着手しやすく、かつ即効性が期待できる領域です。ただし「何でも削ればよい」わけではなく、診療体制に直結する固定費と、そうでない固定費を分けて考える必要があります。
判断基準としては、以下の順で精査するのが実務上の目安です。
| 優先度 | 見直し対象 | 削減の考え方 |
|---|---|---|
| 高 | リース料・保守契約 | 機器の使用頻度と契約内容を照合し、過剰なオプションを解約 |
| 高 | 業務委託費(清掃・警備等) | 相見積もりを取り、契約単価の妥当性を確認 |
| 中 | 賃料 | 契約更新のタイミングで交渉、移転はコストと天秤 |
| 中 | 広告費・システム利用料 | 効果測定できていない支出から順に見直す |
| 低 | 人件費 | 診療体制の維持を優先し、最後に検討 |
人件費を最初に削る判断は避けたほうがよいと考えられます。人員を減らすと診療の回転率や患者対応の質が落ち、再来率や口コミ評価の低下を通じて来院数がさらに落ち込むおそれがあるためです。まずはリース料・委託費・広告費など「効果が可視化しにくい支出」から精査し、成果が出ていない広告費についてはクリニック広告が効いていない時のやめ時判断|継続・改善・停止の3基準を参考に停止・縮小を検討するのが順番として妥当です。
患者単価の見直し:保険診療の範囲でできること
固定費の見直しに着手したら、次に患者単価を見直します。単価とは、1回の来院あたり患者から得られる診療報酬・自費収入の平均額を指します。単価が診療圏の相場や自院の診療内容に対して低い場合、来院数を増やす前に単価の見直しから着手したほうが投資対効果が高くなる場合があります。
保険診療のみのクリニックでも、単価を見直す余地は複数あります。
- 算定できているはずの加算・指導料が漏れていないかの棚卸し
- 検査・処置のオーダーが診療ガイドラインに沿って過不足なく実施されているかの確認
- 予約枠の設計(初診・再診の枠配分)が診療単価の高い診療に偏りすぎていないかの見直し
自費診療を扱う院であれば、保険診療とは別に単価の底上げを図れる余地がさらに広がりますが、価格訴求のみに頼ると患者の信頼を損なうおそれがあるため、費用対効果の見方を含めてマーケティングの費用対効果を計算する:LTVで見る新患獲得単価の上限のような指標で継続的に検証することが望ましいと考えられます。
来院数を増やす施策の順番:院内体験→無料施策→広告
固定費・単価の見直しに着手したうえで、来院数の底上げに取り組みます。ここで広告からいきなり始めるのは、赤字体質の院にとってはリスクの高いやり方です。手元資金が厳しい状況で広告費を投じても、院内体験や無料施策が整っていなければ、獲得した患者が定着せず広告費だけがかさむ結果になりかねません。
優先順位の目安は以下のとおりです。
- 院内体験の見直し:受付対応・待ち時間・予約導線など、既存患者の再来率とロコミ評価に直結する部分
- 無料施策の徹底:Googleビジネスプロフィール(MEO)の基本情報整備、口コミへの返信など、費用をかけずにできる集患施策
- 広告投資:上記2つを固めたうえで、限られた予算をリスティング・MEOなど費果の高い媒体に絞って投じる
来院数が伸び悩んでいる原因を特定するには、患者がどの経路から来院しているかを可視化することが有効です。来院経路分析のはじめ方|患者はどこから来ているかを可視化するを参考に、まず現状把握から始めることをおすすめします。
資金繰りが厳しい時にやってがちな失敗と回避策
赤字が続く院で実務上よく見られる失敗パターンと、その回避策を整理します。
- 失敗①:広告費を増やして一気に挽回しようとする → 固定費・単価の構造的な問題が残ったままだと、広告で獲得した患者も定着しにくく、広告費だけが赤字を拡大させるおそれがあります。まず固定費・単価の見直しを終えてから広告投資を検討するのが順番です。
- 失敗②:人件費を真っ先に削る → 診療体制の縮小は来院数の低下に直結しやすく、短期的な資金繰り改善が中期的な赤字拡大を招くおそれがあります。
- 失敗③:外部業者への丸投げで状況把握が止まる → 経営改善を外部に任せきりにすると、自院の数字が見えなくなり判断が遅れがちです。クリニックのマーケティング外注が失敗する理由と丸投げを防ぐ発注術にあるように、発注する場合も自院で数字を追う体制は残すことが重要です。
よくある質問
Q. 赤字が続くクリニックは、まず何から手をつければよいですか。 A. 多くの場合、固定費の見直しが最も着手しやすく効果が見えやすいとされています。ただし人件費など診療体制に直結する固定費は、削減が来院数の低下を招くおそれもあるため、削っても診療の質・体制に影響しない項目から精査するのが実務上の順番として妥当です。
Q. 固定費削減の一環として、スタッフの人数を減らすべきでしょうか。 A. 人件費は固定費の中でも大きな割合を占めますが、真っ先に削る対象にすると診療の回転率や患者対応の質が落ち、結果的に来院数がさらに落ち込むおそれがあります。まずはリース料・委託費・賃料など診療体制に直結しない項目を精査し、人員は最後に検討する順番が無難です。
Q. 資金繰りが厳しい時、借入で当面をしのぐのは有効ですか。 A. 短期的な資金繰りの改善策として借入や融資枠の活用が選択肢になる場合はありますが、固定費・単価・来院数の構造的な見直しをしないまま借入だけで乗り切ろうとすると、赤字体質そのものは残るおそれがあります。借入はあくまで時間を稼ぐ手段と位置づけ、並行して構造改善に着手することが望ましいと考えられます。
自院の固定費・患者単価・来院数のどこにボトルネックがあるかを整理するためのチェックリストは、経営改善の実務資料をダウンロードからご確認いただけます。またご自身のクリニックの経営状況を客観的に診断したい場合は、無料の経営診断はこちらからお申し込みいただけます。