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クリニックのインスタ運用は自院か代行か|工程別の切り分けと責任の残り方

クリニックのインスタグラム運用を自院で続けるか代行に出すかは、「全部やる」か「全部任せる」かの二択では決まりません。撮影・原稿作成・広告該当性チェック・最終承認という4つの工程に分け、工程ごとに院内に残すか外に出すかを決めるのが実務的です。

そのうえで、判断の前提として押さえておくべき制度上の事実があります。どの工程を外に出しても、広告内容についての責任は院側に残ります。 医療広告等ガイドラインは、広告代理店等と広告依頼者の双方を指導等の対象としているためです。この点は代行契約の組み方を直接左右します。

本記事の要点は次の3つです。

  1. 代行に出しても院は指導対象から外れない:最終承認を院内に固定する以外の選択肢が実務上ありません。
  2. 判断は工程単位で行う:4工程のうち外に出せるのは実質3つです。
  3. 比較すべきは相場ではなく自院の数字:4工程の実工数を時給換算し、同じ工程範囲の見積もりと並べます。

なお本記事が参照する医療広告等ガイドラインは令和8年3月30日最終改正版です。この改正で「オンライン診療受診施設に関する広告」(第4)が新設されるなど章立てが変わっています。院内マニュアルや業者提出資料が旧版の章番号を引用している場合は、改正版で参照先を確認し直してください。

「丸投げ」が制度上成立しない理由

代行を検討するとき最初に確認すべきなのは料金ではなく、責任の所在です。

医療広告等ガイドライン第2の6(2)は、広告依頼者から依頼を受けて広告を企画・制作する広告代理店や、広告を掲載する新聞・雑誌・テレビ・出版等の業務に携わる者、およびアフィリエイターについて、掲載等にあたり内容が法や指針に違反していないか十分留意する必要があるとしたうえで、「違反等があった場合には、広告依頼者とともに法や本指針による指導等の対象となり得るものである」と定めています。

ここで重要なのは「広告依頼者とともに」という部分です。代行業者が指導の対象になることと、依頼した医療機関が対象から外れることは別の話です。同ガイドライン第2の6(1)も、医療法第6条の5第1項の「何人も」という文言を受けて、医療機関だけでなくマスコミ、広告代理店、アフィリエイター、患者又は一般人等、何人も広告規制の対象とされると説明しています。

つまり「専門業者に任せているので院は関知していない」という整理は、制度上成り立ちません。ここから導かれる実務上の結論は単純で、公開前の最終承認だけは院内に固定するということです。これは業者の質を疑う話ではなく、責任が院に残る以上、院が最後に内容を見ていない状態を作らないという設計上の要請です。

工程を4つに分けて委託範囲を決める

責任の所在が決まると、工程ごとの切り分けは機械的に決まります。

工程具体的な作業委託の可否委託する場合に確認すること
撮影院内・設備・スタッフのカット撮影、素材の選定委託しやすい患者の映り込みを避ける手順と、写り込んだ場合の同意取得を誰が管理するか
原稿作成キャプション、ハッシュタグ、投稿順の設計委託しやすい広告可能事項や禁止事項をガイドラインの条項単位で判断できるか
広告該当性チェック公開前の法令面の確認委託可能だが二重化が望ましい業者側チェックの有無と範囲(本文のみか、画像・ハッシュタグ・位置情報まで見るか)
最終承認・公開公開の可否判断と公開操作実務上、委託しない院内の承認者を1名に固定する(理由は後述の判定チェックリスト)

撮影と原稿作成は、外に出しても院の判断を必要とする場面が少なく、委託の効果が出やすい工程です。一方、広告該当性チェックは業者に任せたうえで院内でも確認する二重化が現実的です。業者のチェック範囲が本文だけで、ハッシュタグや画像内の文字を見ていないケースがあるためです。

自院運用の負担を自院の数字で出す

代行費用は、対応範囲・撮影の有無・投稿頻度によって契約ごとに大きく変わるため、業界横断の相場を示すことはできません。代わりに、自院側の負担を数字にしてから見積もりと比べます。

工程は前節の4つ(撮影/原稿作成/広告該当性チェック/最終承認・公開)をそのまま使います。投稿操作は、承認した人がそのまま公開するのが通常のため、最終承認・公開に含めて数えてください。

次の2式で計算します。

  • 月間工数(時間)=(撮影 + 原稿作成 + 広告該当性チェック + 最終承認・公開 の1本あたり所要時間の合計)× 月間投稿本数
  • 人件費換算(円)= 月間工数 × 担当スタッフの時間あたり人件費

記入例を示します。以下の数値は計算方法を示すための仮の値であり、相場や実測値を示すものではありません。自院の実績値に置き換えてください。

項目記入例自院の値
撮影(1本あたり)0.5時間
原稿作成(1本あたり)0.5時間
広告該当性チェック(1本あたり)0.25時間
最終承認・公開(1本あたり/投稿操作を含む)0.25時間
1本あたり合計1.5時間
月間投稿本数8本
月間工数12時間
時間あたり人件費2,500円
人件費換算30,000円/月

月次の分析・報告は投稿1本ごとに発生しないため、この式には含めていません。委託範囲に加えるかを検討する場合は、月あたりの所要時間を別に見積もって加算してください。

なお、この工程分解と時給換算による比較の組み立ては、公的な基準があるものではなく、本記事独自の試算モデルです。

この数字が出ると、見積もりの比較軸が「高いか安いか」から「どの工程をいくらで引き取ってもらうか」に変わります。見積もりを依頼するときは、次の4点をそのまま質問項目にしてください。業者間で回答を揃えられます。

  1. 含まれる工程の範囲:撮影・原稿作成・広告該当性チェックの3工程と、月次の分析・報告のどこまでが月額に含まれるか(最終承認・公開は院内に残す前提です)
  2. 該当性判断の粒度:医療広告等ガイドラインの条項単位で可否を説明できるか。チェック対象は本文だけか、画像内の文字・ハッシュタグ・位置情報まで見るか
  3. 承認フロー:公開前の最終承認を院側に残す運用にできるか
  4. 報告指標:保存数やプロフィールへのアクセス数など、行動段階の指標をジャンル別に報告するか

含まれる範囲が違う見積もりを金額だけで比べても判断材料になりません。

ただし、この人件費換算額をそのまま見積額と比べてはいけません。最終承認・公開の工数は委託しても院内に残るためです。比較するときは次のように置き換えます。上の記入例の数値で計算した結果もあわせて示しますが、これも仮の値による計算例であり、実額を示すものではありません。

  • 委託後に院内へ残る工数 = 最終承認・公開の1本あたり時間 × 月間投稿本数 = 0.25時間 × 8本 = 2時間
  • 委託で浮く金額 =(月間工数 − 委託後に院内へ残る工数)× 時間あたり人件費 =(12時間 − 2時間)× 2,500円 = 25,000円/月

この「浮く金額」(記入例では月25,000円)が見積もりの月額を下回るなら、金額面だけを見れば自院運用のほうが安いという判断になります。上回るなら委託に金銭的な合理性があります。

計算に使う月間投稿本数は、計画上の本数ではなく直近3か月の実績本数にしてください。投稿が止まっていた月の工数は実際にはゼロなので、計画本数で計算すると「浮く金額」が実態より大きく出て、委託の効果を過大に評価します。運用が滞りがちな院ほどこのズレが大きくなります。

どの投稿ジャンルなら委託しても事故が起きにくいか

工程の切り分けを決めるとき、投稿ジャンルによって「院内判断がどれだけ必要か」が変わります。ガイドラインに直接の定めがあるジャンルは判断が一意に決まるため、原稿作成を外に出しても事故が起きにくい領域です。逆に3要件の当てはめが必要なジャンルは、院内承認者の判断が毎回要ります。委託範囲を決める材料としてこの差を押さえてください。

該当性の判定基準そのものは医療広告ガイドラインとSNS運用:インスタ投稿の広告該当性の判定基準で解説しています。ここでは委託判断に必要な範囲に絞ります。

前提として、医療広告等ガイドライン第2の1-1は、①患者の受診等を誘引する意図があること(誘引性)、②医業若しくは歯科医業を提供する者の氏名若しくは名称又は病院、診療所若しくはオンライン診療受診施設の名称が特定可能であること(特定性)、③医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する内容であること、の①〜③のいずれの要件も満たす場合に医療広告に該当すると定めています。

ガイドラインに直接の定めがあるもの(判断が一意に決まるため、原稿作成を委託しやすい)

投稿ジャンル扱い根拠
求人・スタッフ募集誘引性を有さず、指針の対象となる広告ではない第2の5(5)
院が依頼・謝礼をした患者の体験談依頼や謝礼により誘引性が生じる(第2の5(3))。体験談は記述内容が広告可能な範囲であっても認められない(第3-1の1(6))第2の5(3)/第3-1の1(6)
患者が自発的に投稿した感想誘引性を欠くため広告に該当しない第3-1の1(6)
ビフォーアフター写真説明が不十分なものは不可。治療内容・費用等や主なリスク・副作用等の詳細な説明を付した場合は該当しない第3-1の1(7)
費用を強調した訴求品位を損ねる広告として厳に慎むべきもの第3-1の1(8)ア①
院内掲示物の内容掲示自体は誘引性を満たさず情報提供・広報と解される第2の5(4)

第3-1の1(8)ア①は、費用を強調した広告の具体例として「今なら○円でキャンペーン実施中!」「ただいまキャンペーンを実施中」「期間限定で○○療法を50%オフで提供しています」などを挙げています。割引や期間限定の訴求はSNSで反応が取りやすい形式ですが、この類型に正面から当たります。

ビフォーアフター写真についても補足します。第3-1の1(7)は詳細な説明を付した場合は該当しないとする一方で、その掲載場所についてリンクを張った先のページへ掲載したり極端に小さな文字で掲載したりする形式を採用してはならないとしています。文字数と表示形式に制約があるインスタグラムの投稿面で、治療内容・費用・主なリスク・副作用の説明を十分に付すのは困難です。実務上は自院サイト側に置く設計が無難です。なお医療広告ガイドラインとSNS運用:インスタ投稿の広告該当性の判定基準ではSNSへの投稿を避ける方針として整理しています。結論が食い違っているのではなく、条文上の例外まで踏み込むかどうかの粒度の違いです。

また、院内掲示物が広告と見なされないのは、受け手が既に受診している患者等に限定されることが理由です。同じ内容をSNSに投稿すれば受け手の範囲が変わるため、誘引性・特定性の判断はあらためて必要になると考えられます。ただしガイドラインが直接触れているのは施設内の掲示・配布物までで、その内容をSNSへ転載した場合の扱いを明示した記載はありません。ここは適用除外の理由付けからの当てはめであり、執筆者の整理です。院内で使っているポスターの写真をそのまま投稿する運用は、この点で見落としが起きやすい箇所です。

3要件からの当てはめ(執筆者の整理。院内承認者の判断が毎回必要)

以下はジャンル単位で公的な判断が示されているわけではなく、第2の1-1の3要件を当てはめた整理です。実際の該当性は文言と画像の内容によって変わります。この領域を主戦場にするなら、原稿作成を委託しても承認工数は減りにくいと見込んでください。

投稿ジャンル(※以下はすべて執筆者の整理・公式判断ではありません)整理そう判断する理由
診療メニュー・自由診療の紹介受診誘引の意図が明確で、3要件を満たしやすい特定の治療を受けに来ることを直接促す内容であり、誘引性が強く出る
院内・スタッフの日常受診を促す文言がなければ誘引性は弱い院名が入るため特定性は満たすが、行動喚起がなければ誘引の意図が読み取れない
院長コラム・症状の豆知識疾患の一般的な説明にとどまれば誘引性は弱い一般的な医学情報の提供にとどまる限り、自院への受診を促す要素がない
地域イベント・地域情報受診誘引の要素が加わると該当性が上がる単なる地域情報なら誘引性は弱いが、来院や受診の案内が加わると誘引性が生じる

投稿計画が上の表の下段(当てはめが必要な領域)に偏っている場合は、原稿作成だけを委託しても院内の負担はあまり下がりません。その場合は投稿ジャンルの構成自体を見直すほうが先です。限定解除の4要件は限定解除の4要件とチェック手順、表現の言い換えはNG表現と言い換えの基本で確認できます。

広告配信とオーガニック投稿は分けて設計する

運用を代行に出す場合、投稿代行と広告配信をまとめて任せる契約になることがあります。この2つは限定解除の観点で扱いが異なるため、設計を分けてください。

医療広告等ガイドライン第3-3の2は、広告可能事項の限定解除が認められる要件の①を「医療に関する適切な選択に資する情報であって患者等が自ら求めて入手する情報を表示するウェブサイトその他これに準じる広告であること」と定め、その解説で、インターネット上のバナー広告や、検索サイトで運営会社に費用を支払うことによって意図的に検索結果として上位に表示される状態にしたものなどは①を満たさない、としています。

この記述が直接挙げているのはバナー広告と検索連動型の広告です。SNSの広告配信面が同じ扱いになるかを名指しで述べた記載は確認できていません。ただし「患者等が自ら求めて入手する情報」という要件の性質上、費用を支払って対象者のフィードに配信する形式が①を満たすとは考えにくく、限定解除を前提とした自由診療の詳細情報を配信面に載せる設計は避けるのが安全です。これは執筆者の整理であり、実際の判断は個別に確認してください。

実務としては、自由診療の詳細情報は限定解除の要件を満たす自院サイト側に置き、配信面からはそこへ誘導する構成にしておくと、要件の判断が自院サイト側に集約されて管理しやすくなります。

判定チェックリスト

次の3項目を確認してください。

  • 撮影担当:継続して撮影できるスタッフが決まっているか
  • 投稿の継続実績:直近3か月、いずれの月も月4本(週1本相当)以上を維持できているか(この月4本という水準は公的な基準ではなく、本記事が判定をぶれさせないために置いた目安です)
  • 承認者の固定:公開前に医療広告等ガイドラインの観点で確認する担当者が1名に固定されているか

3項目目の「承認者の固定」は、委託の有無にかかわらず院内で満たす必要があります。第2の6により責任が院に残るためです。ここが「いいえ」であれば、代行を検討する前にまずこの体制を作ってください。

3項目すべてが「はい」であれば、体制としては自院運用が成立しています。この場合、代行の検討は不要です。判断を切り替える目安は、担当スタッフの異動・退職で1項目目が崩れたとき、または投稿本数を増やす方針を決めて2項目目の維持が難しくなったときです。それまでは現行のまま運用し、上の人件費換算だけ年1回見直せば足ります。

1項目目・2項目目が「いいえ」であれば、その工程が委託の第一候補です。撮影だけが回らないなら撮影のみ、原稿が書けないなら原稿作成のみ、という部分委託から始めると、承認体制を院内に残したまま負担を下げられます。両方とも「いいえ」の場合は、撮影から原稿作成までをまとめて委託し、院内は承認に専念する形が現実的です。

投稿前の確認フローの作り方は医療広告チェック体制のつくり方、Googleビジネスプロフィールとの役割分担はGBP投稿の効果を出す運用術で解説しています。

効果を判断する指標

代行の継続可否を判断するには、報告される指標が行動段階を追えるものになっている必要があります。フォロワー数といいね数だけでは、来院への貢献を判断できません。

以下の指標の組み立ては医療広告等ガイドラインに基づくものではなく、SNS運用の実務上の整理です。

指標意味見る目的
保存数 ÷ リーチ数後で見返したいと思われた割合投稿内容自体に価値があるかを確認する
プロフィールへのアクセス数 ÷ リーチ数投稿からアカウントへ関心が移った割合投稿が院への興味につながっているか確認する
プロフィールのリンククリック数サイト・予約ページへの遷移数次の行動につながっているか確認する

これらは投稿単位ではなくジャンル単位で月次比較し、保存率の高いジャンルの本数を増やす、といった配分の調整に使います。代行契約では、この3指標をジャンル別に報告してもらえるかを事前に確認してください。


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参照した一次情報:

  • 厚生労働省「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告等ガイドライン)」令和8年3月30日最終改正 https://www.mhlw.go.jp/content/001683594.pdf (確認日: 2026-08-05)
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