「医療広告ガイドラインは知っているが、実際どこからが処分対象で、どこまでが行政指導で済むのか分からない」——院長・広報担当からよく聞く悩みです。結論として、医療広告違反の処分は「行政指導」「中止命令・是正命令」「刑事罰」の3段階です。多くの違反は行政指導の段階で解決しますが、命令を無視した場合や、初めから虚偽の広告を出していた場合は罰則に進みます。
まず押さえるべき要点は3つです。
- 段階を知る:処分は行政指導→中止命令・是正命令→罰則の順に重くなり、初期対応の速さが段階の進行を防ぐ最大の要因です。
- 虚偽広告だけは命令を待たない:誇大広告や比較優良広告は「命令に従わなかったこと」が罰則の引き金ですが、虚偽広告は医療法第87条第1号でそれ自体が直接処罰されます。
- SNS・LP・院内掲示も同じ規制対象:媒体を問わず①誘引性②特定性③医業・医療機関に関する内容、の3要件を満たせば医療広告とみなされ、罰則の対象になり得ます。
医療広告ガイドラインにおける「罰則」とは
医療広告ガイドラインにおける罰則とは、医療法第6条の5・第6条の8などに基づき、虚偽広告・誇大広告・比較優良広告といった禁止事項に該当する広告を行った医療機関に対して科される一連の措置です。単なる「マナー違反への注意」ではなく、悪質な虚偽広告には拘禁刑まで規定されている点が、他業種の広告規制と異なるところです。多くの院長は「指摘されたら直せばいい」と考えがちですが、命令段階まで進むと医療機関名が公表される場合もあり、集患面でのダメージも無視できません。詳しい規制の全体像は医療広告ガイドラインをわかりやすく解説した記事で整理していますので、あわせて確認してください。
罰則に至るまでの3段階と目安
処分の重さは一段階ずつ積み上がるわけではなく、違反の内容によっていきなり重い段階から始まることもあります。目安を表に整理します。
| 段階 | 内容 | 主体 | 目安となる状況 |
|---|---|---|---|
| 行政指導 | 口頭・文書での指摘、自主的な修正の依頼 | 保健所・自治体 | 表現の不備、限定解除要件の不足など初期の指摘 |
| 中止命令・是正命令 | 法的拘束力を持つ命令(医療法第6条の8第2項) | 都道府県知事等 | 指導に応じない、繰り返し同様の違反がある |
| 刑事罰 | 6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金(第87条) | 司法手続き | 命令違反、または虚偽広告そのもの |
実務上ボリュームが多いのは表の上から2段目までで、ここで対応を終えられるかどうかが分かれ目です。中止命令を受けてから広告表現を見直すのではなく、公開前のチェック体制を整えておくことが根本的な回避策になります。
「課徴金」は医療法にはない — よくある誤解
医療広告の解説記事で「課徴金」に言及しているものを見かけますが、医療法の条文に課徴金の規定はありません。医療広告違反に対して課徴金納付命令が出されることはなく、金銭的な制裁は第87条・第89条の罰金刑のみです。
混同されやすいのは、次の2つの制度です。
- 景品表示法の課徴金納付命令:優良誤認表示・有利誤認表示が対象。美容医療のLP表現などで実際に措置命令・課徴金の事例があります
- 薬機法の課徴金納付命令:医薬品・医療機器等の虚偽・誇大広告が対象
医療広告等ガイドラインは、禁止される広告の類型のひとつとして「他法令又は他法令に基づく広告規制において禁止される内容の広告」を挙げています。つまり医療機関の広告であっても、景品表示法や薬機法に触れる表現であれば、医療法とは別ルートでそれぞれの法令の処分対象になり得ます。「医療法に課徴金がない=金銭的リスクがない」という理解は誤りで、正しくは「課徴金は医療法ではなく他法令の話」です。
刑事罰の条文構造 — 虚偽広告だけ扱いが違う
医療法第87条は、6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金を定めています。ここで実務上重要なのは、同じ第87条の中で入口が2つに分かれていることです。
| 号 | 対象 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 第87条第1号 | 第6条の5第1項違反(虚偽広告)など | 命令を経ずに直接処罰される |
| 第87条第3号 | 第6条の8第2項の中止命令・是正命令に違反したとき | 命令違反が引き金 |
中止命令・是正命令(第6条の8第2項)の対象は、第6条の5第2項・第3項——つまり比較優良広告・誇大広告・公序良俗違反・広告可能事項以外の広告です。虚偽広告(同条第1項)は命令の対象に含まれておらず、命令を待たずに罰則がかかる建て付けになっています。
「命令に従わなかったことが刑事罰の引き金」という説明は、誇大広告や比較優良広告については正しいものの、虚偽広告には当てはまりません。事実と異なる内容を掲載していた場合は、指摘の有無にかかわらずリスクがあると考えてください。
なお、報告命令に応じない場合や立入検査を拒んだ場合は、別に第89条で20万円以下の罰金が定められています。
罰則の対象になりやすい広告の特徴
行政の指摘が入りやすいのは、以下のような広告です。
- 効果を保証するような表現(「必ず改善」「完全に治る」等)を用いたLPで自由診療の予約を集めていた
- 患者の体験談を掲載していた(注釈を付けても認められません)
- ビフォーアフター画像を、費用・リスク・副作用等の詳細な説明なしに掲載していた
- 「絶対安全」「副作用なし」などのリスク説明を欠いた誇大な訴求で継続的に集客していた
これらは医療広告ガイドライン違反事例としても繰り返し指摘されているパターンで、実際にどのような指摘が行政指導の段階で入るのかは医療広告ガイドライン違反事例に学ぶ記事で具体例を紹介しています。自院のLPやSNS投稿に近い表現がないか、公開前に照らし合わせておくと安心です。
罰則を避けるための自院チェック体制
罰則に至る前段階でほとんどの違反は止められます。以下のチェックリストを、サイト公開前・SNS投稿前・広告出稿前の運用フローに組み込むことをおすすめします。
- NG表現の有無:最上級表現・効果の断定・体験談の有無を確認する。判断に迷う表現の言い換え方はNG表現と言い換え方の記事が実務的な参考になります。
- 限定解除要件の充足:自由診療のメニュー紹介など限定解除を前提にしたページは、問い合わせ先・費用・リスク等の要件を満たしているか確認する。要件の詳細は限定解除の4要件を解説した記事を参照してください。なお限定解除で外れるのは広告可能事項の限定だけで、虚偽・誇大・体験談などの禁止は解除されません。
- SNS・院内掲示の点検:ウェブサイトだけでなくInstagramやLINE公式アカウントの投稿も同じ基準で確認する。
- 指摘を受けた際の対応フロー:誰が窓口になり、何日以内に修正するかをあらかじめ決めておく。
このチェックを月1回程度のペースで回すだけでも、行政指導の段階で気づき、命令や罰則といった重い処分に進む前に対応できる可能性が高まります。
よくある質問
Q. 保健所からの中止命令に従わないとどうなりますか。 A. 中止命令や是正命令は行政指導とは異なり法的な強制力を伴います。正当な理由なく従わない場合、医療法第87条第3号により6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金の対象になり得ます。命令を受けた時点で速やかに該当箇所を修正・削除する対応が望ましいです。
Q. 医療法に課徴金制度はありますか。 A. ありません。医療法の条文に課徴金の規定はなく、医療広告違反に対して課徴金納付命令が出されることはありません。課徴金と混同されやすいのは、景品表示法の課徴金納付命令(優良誤認・有利誤認表示が対象)と、薬機法の課徴金納付命令(医薬品等の虚偽・誇大広告が対象)です。医療機関の広告でもこれらの法令に触れれば、その法令に基づく処分の対象にはなり得ます。
Q. InstagramやLINE公式アカウントの投稿も罰則の対象になりますか。 A. 現行の医療広告等ガイドラインでは、①誘引性②特定性③医業・歯科医業または病院・診療所に関する内容であること、の3要件をすべて満たす発信が医療広告に該当します。院のアカウントによる投稿であれば、ウェブサイトと同様に中止命令や罰則の対象になり得ると考えて運用するのが安全です。
本記事は医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告等ガイドライン・令和8年3月30日最終改正)および医療法の条文に基づいて記載しています。一般的な情報提供であり、個別事案に対する法的助言ではありません。
自院サイトの表現に不安がある場合は、まず医療広告ガイドライン準拠チェックシートの資料で公開前のセルフチェック項目を確認してみてください。「どこまでが指摘対象になりそうか判断がつかない」という場合は、無料の広告表現診断で現状のリスク箇所を洗い出すことも可能です。