「求人を出しても応募が来ない」より前に、そもそも「欠員が出てから求人を出している」院は少なくありません。採用計画とは、欠員発生を待たずに人員体制の見通しを先に立て、募集時期・媒体・予算をあらかじめ決めておく経営行為です。後手の採用は募集期間の短縮・条件面での妥協・採用コストの上振れにつながりやすく、先手で計画を組むことがこれらのリスクを下げる現実的な打ち手になります。
まず押さえるべき要点は3つです。
- 採用計画とは「欠員補充」ではなく「人員体制の設計」であること
- 年間スケジュールに落とし込むことで媒体選定・予算配分の判断が早くなること
- 採用計画は定着施策とセットで初めて機能すること
採用計画とは何か──「欠員補充」との違い
採用計画とは、自院の診療体制・シフト・将来の増患見込みをもとに、いつ・どの職種を・何名採用するかをあらかじめ決めておく計画のことです。これに対して欠員補充は、退職の申し出や急な人手不足が起きてから動く対応であり、時間的な余裕がない状態で募集条件を決めることになります。
欠員補充だけを繰り返している院では、次のような判断が常に「急ぎ」で行われがちです。
- 求人票の内容を練る時間がない
- 媒体選定を比較検討せず前回と同じものを使う
- 人材紹介会社の手数料を確認せずに依頼してしまう
採用計画があれば、これらの判断を余裕を持って行えるため、結果として採用コストや採用後のミスマッチを抑えやすくなります。採用コストの内訳や下げ方については薬剤師の採用コストの計算方法でも詳しく整理しています。
年間採用計画を立てる4つのステップ
採用計画は、次の4ステップで組み立てると実務上は扱いやすくなります。
| ステップ | やること | 目安の時期 |
|---|---|---|
| 1. 人員棚卸し | 常勤・非常勤の年齢・雇用形態・退職リスクを一覧化する | 年1回(期初) |
| 2. 需要予測 | 診療科の増患計画・新規サービス開始予定を反映する | 年1回〜半期に1回 |
| 3. 募集計画 | 職種別に募集時期・媒体・予算をあらかじめ決める | 四半期ごとに見直し |
| 4. 定着施策の紐づけ | 入職後のオンボーディング・評価制度を計画に含める | 通年 |
このうち特に見落とされやすいのが「2. 需要予測」です。増患施策や新規事業(自費診療の追加など)を検討している場合、マーケティング側の計画と採用計画を切り離して考えると、体制が追いつかないまま集患だけが進む事態が起こり得ます。マーケティング全体の優先順位づけについてはクリニックのマーケティング戦略とはで解説していますので、採用計画とあわせて確認することをおすすめします。
採用計画がない院で起きる典型的な失敗
採用計画を持たない院では、次のような失敗パターンが繰り返し起きがちです。
- 募集時期の後ろ倒し:退職の意思表示を受けてから求人を出すため、引き継ぎ期間が確保できない
- 媒体選定の場当たり化:前回使った媒体をそのまま継続し、職種や条件に合っているかを検証しない
- 紹介会社への依存:急ぎのため手数料の高い紹介会社に頼らざるを得ず、採用コストが年間で見ると膨らむ
- 定着施策の欠如:採用がゴールになり、入職後のフォロー体制が計画に含まれていない
これらは「悪いことをしている」というより「計画がないために選択肢が狭まっている」状態です。採用計画があれば、募集時期に余裕が生まれ、無料・低コストの媒体を試す時間的猶予も確保しやすくなります。
求人媒体は「年間計画」に合わせて選ぶ
採用計画を立てると、職種・時期ごとに使うべき媒体の判断がしやすくなります。たとえば薬剤師採用であれば、常に紹介会社経由で急ぎ採用するのではなく、計画的な募集であればハローワークやIndeedの無料枠を先に試し、期間内に充足しなければ有料媒体・紹介会社へ段階的に切り替えるという設計が可能になります。無料枠の使い分けについては薬剤師求人を無料で出す方法、媒体ごとの向き不向きは薬剤師求人媒体の比較で整理しています。
医療機関全体の求人媒体運用としては、医療特化媒体をメインに据え、検索エンジン系媒体をサブとして組み合わせる考え方が実務上は取りやすいとされています。詳細は医療機関の求人媒体運用をご参照ください。年間計画があれば、こうした媒体の組み合わせを「急ぎだから」ではなく「事前に決めた優先順位」で選べるようになります。
採用コストは「単発」でなく「年間」で見る
採用計画がないと、1回あたりの採用コストだけを見て「今回は高かった/安かった」と単発で評価しがちです。しかし本来は、年間で何人採用し、そのうち紹介会社経由・自社応募経由がどの比率かを見て、年間トータルの採用コストとして管理する視点が必要です。人材紹介会社の手数料相場については薬剤師紹介会社の手数料相場、派遣と直接採用の損益分岐点は薬剤師派遣の料金相場で比較しています。
採用コストを新患獲得コストと同じ「投資対効果」の枠組みで捉える視点も有効です。LTVの考え方を採用にも応用できるかどうかはマーケティングの費用対効果を計算するで扱っている内容が参考になります。
定着まで見据えた採用計画にする
採用計画は「採用して終わり」では機能しません。入職後3ヶ月〜半年での離職は、採用コストを実質的に押し上げる要因になり得るため、計画の中にオンボーディング・評価面談・相談窓口といった定着施策をあらかじめ組み込んでおくことが望ましいと考えられます。専任のマーケティング・人事担当がいない院でも、院内体制の作り方についてはクリニックのマーケティング担当者が不在でも回る院内体制が参考になります。
小規模薬局における人手不足対策のように、給与以外の切り口(シフトの柔軟性・評価の透明性・研修機会など)で定着率を上げる工夫も、採用計画の一部として位置づけておくと運用しやすくなります。詳しくは薬局の人手不足対策で解説しています。
よくある質問
Q. 採用計画は誰が主導して作るべきですか。 A. 院長または事務長が中心となり、現場のシフト状況を把握している主任クラスの意見を反映させる形が実務上は機能しやすいとされています。専任担当を置けない院でも、年1回の棚卸しは院長主導で行うことが可能です。
Q. 開業直後でも採用計画は必要ですか。 A. 開業前後は体制が固まっていないため、まずは開業までの逆算スケジュールに人員計画を組み込むことが優先されます。開業準備全体の進め方は開業前3ヶ月の集患準備もあわせてご確認ください。
Q. 採用計画を立てても急な退職には対応しきれないのでは。 A. 計画があっても突発的な退職を完全に防ぐことは難しいと考えられますが、代替候補の目星や媒体の選定基準を事前に決めておくことで、対応にかかる時間を短縮できる可能性はあります。
採用計画の立て方や年間スケジュールの組み方を自院に落とし込む際の参考資料として、採用計画テンプレートの資料をあわせてご活用ください。また、自院の採用課題がどこにあるかを整理したい場合は、無料の採用診断から現状の棚卸しを始めることも可能です。