「事業計画書は税理士や認定支援機関に任せているが、集患・患者数の欄だけはいつも根拠が弱いと指摘される」——開業資金や増患投資の融資相談で、こうした壁にぶつかる院長は少なくありません。事業計画書の中で融資担当者が最も時間をかけて読むのは、実は収支計画そのものより「その患者数はどこから来るのか」という前提部分です。結論から言うと、患者数の根拠は診療圏の人口データと競合状況、来院経路の想定を組み合わせ、数字の出所を1つずつ示せる形に組み立てる必要があります。
まず押さえるべき要点は3つです。
- 患者数は「診療圏人口×受診率×自院シェア」の掛け算で説明する:感覚的な見込みではなく、算出過程を分解して示すことが融資担当者の納得材料になります。
- 競合の数と特性を客観データとして併記する:自院がなぜそのシェアを取れるのかを、周辺の医療機関の状況と対比させて説明します。
- 開業後の集患計画(施策と時期)とセットで書く:患者数の数字だけでなく、それを実現するための具体的な打ち手を示すことで計画に実現性が生まれます。
事業計画書の集患部分とは、融資担当が患者数の実現可能性を検証する箇所です
事業計画書の集患部分とは、開業後の患者数見込みとその根拠を示すセクションのことです。融資担当者は損益計算書の数字そのものよりも、その数字の前提となる患者数がどのように算出されたかを重視します。理由は単純で、患者数の見込みが崩れれば売上も収支計画も連動して崩れるためです。
融資審査では「なぜその患者数になるのか」を説明できない計画書は、根拠不足として差し戻されるか、保守的な数字への修正を求められることが一般的です。逆に言えば、患者数の根拠さえ丁寧に組み立てれば、事業計画書全体の説得力が大きく変わります。
融資担当者が患者数根拠でチェックする4つの判断基準
融資担当者が集患部分を読むときに見ているポイントは、おおむね次の4つに集約されます。
| 判断基準 | 融資担当者が確認したいこと | 事業計画書での示し方 |
|---|---|---|
| データの出典 | 患者数の元になった数字は何か | 国勢調査、自治体の人口統計、患者調査など出典名を明記 |
| 算出過程 | 人口からどう患者数まで落とし込んだか | 診療圏人口×受診率×自院シェアの式で分解 |
| 競合との関係 | なぜそのシェアが取れるのか | 周辺の同科医療機関数・立地・診療時間との比較 |
| 実現手段 | その患者数をどう獲得するのか | 開業前後の集患施策(MEO・紹介・広告等)の計画 |
このうち特に見落とされがちなのが「実現手段」です。患者数の数字だけを積み上げても、それを獲得するための具体的な導線が書かれていなければ「絵に描いた餅」と判断されるおそれがあります。開業前の集患準備をどう逆算して組むかは、開業前3ヶ月の集患準備で扱っている内容が参考になります。
患者数見込みを組み立てる手順(診療圏分析から逆算する)
患者数の根拠は、次の手順で組み立てると数字の出所が追いやすくなります。
| 手順 | 内容 | 使うデータ |
|---|---|---|
| 1. 診療圏の設定 | 立地から徒歩・車での来院想定範囲を決める | 地図、交通アクセス、駐車場有無 |
| 2. 圏内人口の把握 | 診療圏内の年齢層別人口を集計する | 国勢調査、自治体の人口統計 |
| 3. 受診率の想定 | 診療科ごとの一般的な受診率を掛け合わせる | 診療科の統計、既存クリニックの実績値 |
| 4. 競合分析 | 圏内の同科クリニック数と特徴を洗い出す | 医療機関検索、Googleマップ |
| 5. 自院シェアの算定 | 競合数と差別化要素から獲得見込み患者数を出す | 上記1〜4を統合した試算 |
診療圏分析は院長自身でも進められる作業です。地図上での競合の洗い出し方や、開業医が自分で行える診療圏分析の手順については競合調査の進め方にまとめています。ここで作成した競合リストと圏内人口データが、そのまま事業計画書の患者数根拠の裏付け資料になります。
患者数根拠を数字で補強する経営指標の使い方
患者数の根拠は、開業前の推計だけでなく「損益分岐点となる患者数は何人か」という経営指標とセットで示すと説得力が増します。融資担当者は「その患者数で本当に返済できるのか」を最終的に確認するため、損益分岐患者数と見込み患者数の差(安全率)を示すことは有効な材料になります。損益分岐点や人件費率の一般的な目安の読み方はクリニック経営指標の見方を参照すると、事業計画書の収支計画部分と患者数根拠をつなげて説明しやすくなります。
また開業後にKPIとしてどの数字を追うかを事前に決めておくと、事業計画書の「実現手段」欄にも具体性が出ます。新患数だけでなく、来院経路別・診療科別にKPIを分解する考え方は集患KPIツリーの作り方が参考になります。
やりがちな失敗と回避策
事業計画書の集患部分でよくある失敗は、次のようなパターンです。
- 周辺の開業実績を根拠なく引用する:「近隣クリニックは年間◯人の新患があるらしい」といった伝聞情報だけでは根拠として弱く、出典が求められた際に説明できなくなります。可能な範囲で公的統計や自院の試算に置き換えるべきです。
- 競合分析を診療科名の羅列で終える:競合の数を数えるだけでなく、診療時間・立地・自由診療の有無など、自院が差別化できる要素まで書き込むと説得力が上がります。
- 患者数の伸び方を初年度からフルスペックで書く:開業直後から満床想定の患者数を計画すると、非現実的と判断されやすくなります。立ち上がり期を保守的に見積もり、段階的に伸びる曲線で示す方が自然です。
- 集患施策の記載が抽象的:「広告を打つ」「口コミを増やす」とだけ書くのではなく、時期・予算感・想定効果まで踏み込むと、患者数根拠と施策計画の整合性が取れます。
よくある質問
Q. 事業計画書の患者数見込みは、開業何年目までの数字を書けばよいですか。 A. 一般的には開業から3〜5年分の月別または年別の患者数推移を求められることが多いです。初年度は立ち上がり期として低めに、2〜3年目にかけて診療圏内の認知が進むにつれて段階的に伸びる曲線で示すと、融資担当者に自然な計画として受け止められやすい傾向があります。
Q. 診療圏分析は自分で行っても融資審査で通用しますか。 A. 自院で行った分析でも、根拠データの出典(国勢調査や統計、競合数のカウント方法など)を明示していれば評価材料として扱われることが一般的です。ただし規模の大きい借入では、金融機関側が外部調査会社のレポートを求めるケースもあるため、事前に窓口へ確認しておくと手戻りを防げます。
Q. 患者数の根拠に競合クリニックの情報をどこまで書くべきですか。 A. 競合の診療科目・立地・営業時間程度の客観情報を整理し、自院との違いを説明する材料として使う分には問題ないとされています。ただし競合を誹謗する表現や、根拠のない優劣の断定は避け、あくまで自院の立ち位置を説明するための比較にとどめるのが無難です。
事業計画書の患者数根拠は、診療圏データと競合分析、開業後の集患施策を1本の筋道でつなげて初めて説得力を持ちます。自院の診療圏でどこまで根拠を積み上げられているか整理したい場合は、まず診断ツールで現状の集患体制を確認し、事業計画書に落とし込む材料として資料ダウンロードから具体的なフォーマットや考え方を持ち帰ることをおすすめします。